神様、俺は妻が心配でならんのです
 何も、してやれない夫だった。

 仕事をこなす日々。そこから残った余暇に、酒を片手に持っていたら、妻を愛せるはずがなかった。

 抱き締めるはずの腕に、彼は酒を持っていた。

 妻と他愛のない話をしてやれるはずだった時間、彼はテレビを大きな音量で流し、意味もなく時間をだらだらと消費した。

「本当に、お疲れ様でした。もう一度抱き締めてもいいですか?」

 出迎えも、抱き締めも、なかったことだった。

 けれど仲村渠は、いっときのこの夢を『一度だけでいい』と見たくなった。

 最初で最後にするからと、彼はそう思いながら妻の胸を借り、泣いた。

 嗚咽を押し殺し、後悔と、罪悪感と、そしてたった一人愛したその女性に『どうか俺より先に死なないで欲しい』という想いで、泣いた。

 そして、仲村渠は、彼女の前で泣くのはこれで最後にしようと心に決めた。

 そのあと、彼は台所で片付けをする妻を残し、友人の城間に大急ぎで電話をかけた。

 申し訳なく思いながら病院に確かめに行ってもらうと、病室で寝ている妻がいたと、折り返し電話連絡があった。
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