神様、俺は妻が心配でならんのです
 仲村渠が夕刻に帰宅すると、当然のように妻がリビングで雑誌を読みながら、つけっぱなしのテレビを見ていた。

 彼は思わず、身体は大丈夫なのか、と尋ねた。

 すると妻は不思議そうに夫を見上げ「ふふっ」と笑った。

「どうしたの、私はなんともないわ、変な人ねぇ――」

 そう言って、妻は微笑んでいた。

 病院にある妻の身体の容体は、相変わらず安定していたが、城間からの報告によれば、まったく目覚めない、という一つの異変が起こっていた。

 病院側は精密検査を行ってみたようだが、原因はとうとう分からずじまいだった。

 末の息子も仲村渠にそう報告し、また何かあったら連絡するからと言って、電話を切っていた。

 報告を受けた日も、息子から電話があった日も妻がベッドに寝た形跡はなかった。

 仲村渠がいつもの時間に目を覚ますと、妻はすでに台所にいて、珈琲と朝食の準備をしているのだ。

 もし、何かが違っていたら、こんな幸福な生活もあったのかもしれない。
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