神様、俺は妻が心配でならんのです
 仲村渠はそう思うと自分の生き様に後悔を覚え、死ぬほど胸がつらくなった。

(けれど今は――妻のことだ)

 彼は、注意深く妻の様子を観察した。

 当時は『ゆっくり』なんてできなかったから、なんでもしてやりたくなったのは確かだ。

 もっと、一緒にいたいと願った。手に入れられなかった未来が、すでに手に届かないことを気付かされて不意に涙が溢れそうになる時もあった。

 彼は自分が、昔からずっと彼女を愛していたのだと知った。

 告白されて一緒に過ごし始めてから、俺は君のことを愛していたのだと、そう君に言えた日はあっただろうか?

「――俺は、ずいぶん鈍い男のようだ。後悔ばかりだな」

 思わず言葉を食卓にこぼした時、妻はきょとんとしてから、やっぱり意味が分からないわと言って笑っていた。

「そうねぇ、鈍いところもあるけれど、でもとても一生懸命だったじゃない。私達の生活に、後悔なんてないでしょう? 子ども達もすっかり大きくなって、皆、ちゃんと育っていったもの」
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