神様、俺は妻が心配でならんのです
             六

「今日で、ちょうど十日になります」

 そう締めた仲村渠の長い話を、東風平とミムラは、黙って聞いていた。時折、聞いていることを示すように頷いてはいた。

 気付けば太陽は、天高く昇っていた。

 仲村渠は、傾き始めている縁側の日差しに驚き、数回は謝った。

「いえ、構わないですよ。まぁお茶をどうぞ」

 促されるがまま、仲村渠は恐縮して両手でカップを取り、茶を飲む。

 そんな彼を、しばらく見つめた後で、東風平が言った。

「なるほど。相違を発覚させないためにも彼女とあなたは、二人を知る人間には認識されないようになってしまっているのですね。一種の制約のようなものですよ。それは、あなたの妻の意識にも施されている」
「意識……? それに、制約とは」
「まあ、まずはお聞きなさい」

 彼は手をすっと前に出して、仲村渠の言葉を遮った。

「あなたの奥様に関しては、記憶と思考能力を身体の方に置いてきている状態です。そう、彼女にとっては『夢を見ている状態』、と言えばいいのでしょうか。夢という見えない糸を、彼女とあなたの守護霊達が、しっかりと握ってくれている訳です」
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