神様、俺は妻が心配でならんのです
 何百万人という人間が、自分の運命を一生懸命に歩み、学び、過酷な試練とも取れない現実に抗い続けている中で、このような現象が起こっているだけでも贅沢すぎる奇跡――なのだろう。

(彼女を元に戻したら、止まっていたことが、再び動きだすんだ)

 それは、当たり前のこと。

 すべてが止まってい今が、あり得ない状態なのだ。

 東風平がテーブルの上に視線を落とした。そこには、使い古された小さな灰皿があった。

 普段、彼は煙草を嗜むのだろう。仲村渠もそれに気付いたが、東風平はとくに姿勢も変えず話の先を続けてきた。

「彼女を守護する神は、最期の時に、彼女を導けるよう彼女を待ち続けている。彼女はとても信心深く、多くの神様達に愛される女性のようですね。彼らは強制をしません。生まれてからずっと、私達を見守り、私達の成長を願って、聞こえない声を掛け続けながら、信じて待つのです」

 仲村渠は、東風平の話を黙って聞いていた。

 祈るべき神について、仲村渠は詳しく知らなかった。
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