神様、俺は妻が心配でならんのです
 盆や先祖供養といった行事を大事にする妻を、いつも玄関先で見送るばかりだった。妻は夫が面倒で行きたがらない時は、一人「いってまいります」と笑顔で出掛けてゆき、食べ物の土産をたくさん持って帰ってきた。

『ウサげたものですからね、健康になりますよ。きっと、ご利益があるでしょう。さ、あなた、お腹をすかせてしまってすみません。たくさんお食べになって、長生きしてくださいな――』

 待たされている間、仲村渠は空腹で過ごした訳ではないし、寂しい思いもしていなかった。

 妻が一族の行事をしている時、好きな物を食べに喫茶店に立ち寄ったり、デリバリーの食事をとったりと、自分の時間を好きに使っていた。

 だから腹を空かせて、妻を待っていたことはない。

 けれど彼女の手土産に空腹を覚えて、そうやって二人で食べたことは覚えている。

(ああ、俺は――)

 どうして今になって、こんなに鮮明に思い出すことができるのだろう。

 酒をやめてしまったからだろうか。面白くないからと、一人のビールさえも飲まなくなったからか。
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