学生寮
莉絵ちゃんはとっさに顔面にラケットをかざした。


ボールは莉絵ちゃんの顔ではなく、ラケットに当たって跳ね返り、みんなほっと肩をなでおろした。


「さすが莉絵ちゃん、よく避けられたね!
やっぱ現役は反応が速いわ」


カンジさんが、私の後ろから大きな声で莉絵ちゃんを褒めた。


莉絵ちゃんは一度キッと私をにらんだあと、泣きそうな表情をしてきびすを返し、後ろにいたリョウさんに駆け寄った。


「リョウ兄ちゃん、こわかったよぉ!
顔面狙うなんてひどいよね?
相手が私だから避けられたけど、裕子さんだったら大怪我するとこだと思わな~い?」


わざとでないにしろ、自分のしてしまったことに狼狽していた私ははっと我に返って頭を下げた。


「ごめんなさい。
ほんと、私下手だから、どこ飛んで行っちゃうか自分でもコントロールできてなくて。
本当にごめんなさい」


コートサイドで、莉絵ちゃんの言葉にまたしても憤慨している様子の裕子の顔がちらりと見えたので、裕子の怒りを鎮めるためにも、私が謝ることで丸く収めたかった。


しかし、莉絵ちゃんは容赦がなかった。

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