学生寮
そのとき、車が後ろから近づいてきた。


もともと、リョウさんの方が車道側を歩いてくれていたんだけど、さりげなく私の背中に手を添えかばうようにする。


リョウさんの胸が目の前に近づき、コロンがかすかに香った。


リョウさんは当たり前のようにそんな風にするけれど、私は、目の前の広い胸に抱きつきたい衝動がつきあげてきて、たまらなかった。


もう、やられっぱなし。


くやしい。


ヘッドライトを光らせた車が走り去り、またあたりはうす暗い街灯の明かりだけに戻った。


でも、リョウさんは、車が去ったあとも私をかばうような体勢を変えない。


私がこんなにドキドキしてるのにいつまでそうしてるのよ、と文句の一つも言いたくなった。


その時。


リョウさんは、私の背中に当てていなかった方の手も私の背中に回し、私をそっと抱きしめた。

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