【累計PV1.5万】愛を知らない少女は、次期当主様に溺愛される。

いつもと違う架瑚 藍視点

【限定話】



「大丈夫ですか、架瑚さま」
「んー……」

 今日は真夏日。
 架瑚さまは夏風邪をひいてしまった。
 平日だが天宮生はもう夏休み。
 なので私は架瑚さまの看護をすることにしました。

(それにしても……)

 今日の架瑚さまはいつも以上に色気が溢れています。
 首筋を伝う汗、熱を帯びた瞳(現実)、弱った体などなど……どれも普段の架瑚さまでは見られないお姿に、少しドキドキする。
 するとーー

「! だめですよ架瑚さまっ」

 架瑚さまが体を起こそうと動いたので、私はすかさず静止する。お仕事をしようとしたのだろうか。だとしたら止めなくてはならない。

「綟に、怒られる……」
「調子の悪い日に働く方が怒られますよ!」
「んん……」

 私は架瑚さまを布団の中に戻す。架瑚さまは不満気にしながらも布団にもぐっていく。

「藍は、学校いいの……?」
「夏休みですから」
(ぼぉっとしてるな、架瑚さま。熱高いし)

 心配になってくる。だがこんなこと思うのもなんだが、色気ダダ漏れのぼぉっとしたレアな架瑚さまも最高に良い。いや、良くはないのだが、その、すごくきゅんとくるのだ。
 ……すごくおかしいかもだけど。

「あい、る」
「はいっ、なんでしょうかっ……!」

 考え事をしていたせいで変な声が出た。恥ずかしい。申し訳ない……。

「ん? んん?」

 架瑚さまから手が伸び、

「えっ、ん? か、架瑚、さま……?」

 そのまま胸の中に引き寄せられた。

「ふぇっ? えっ、えっ? ええっ?」

 架瑚さまの熱が伝わる。ちょっと待って。私、今、かなりまずい状況じゃない? 架瑚さまが熱でおかしくなっているのはわかる。記憶と呂律がおかしくなっているから熱が高くなってきたんだな〜ぐらいだったんだが、これは本当にまずい。

「架瑚さま、離してくださいっ。お、重い、ですからっ!」
「んん……あいるはにんぎょうみたいにふわふわでかるい。おもくない。かるすぎる」
「に、人形……?? よ、よくわからないですけど、重いものは重いですから!」

 逃げようとするも、架瑚さまは熱がある割に力が強い。……あ、それとも私が弱いのかな。いや、今はそこじゃない。逃げなくては……!
 このままいくとよくない予感がする。
 だが、当然の如く私が逃げられるわけがなかった。

「……かわいい」
「えっ!?」

 その言葉と共に首元に柔らかな感触が伝わる。き、キスされてる? というか、なんで「かわいい」なの?? 今この瞬間にかわいい要素ありました!?

「やっ、あのっ、ちょっと、かっ、かこっ、さまっ、やめっ……!」

 その後も延々とキスをする架瑚さま。
 病人だって自覚、絶対ない……!

「っ……!」

 い、いつ終わるの、これ。肌と肌が触れる瞬間に小さく響く音がものすごく恥ずかしいから早くやめてほしい…
 架瑚さまと距離が近づく。

「あっ、あの、架瑚さまっ……!」

 そして唇に触れる……かのように思えたが、架瑚さまは寸前で止め、結局は私の額にキスをした。
 そして髪に触れ、そのまま下へ下がり、私の頰へと手を滑らせーー

「愛してる」
「〜〜〜〜っ!!」

 耳元でささやいた。

「わ、私も……」

 私も多分、架瑚さまの熱が移ったのだろう。少なくとも、普段の私ならあんなことは言えなかった。

「架瑚さまのこと、いちばん愛しています」

 そしてその言葉が架瑚さまの理性をナイフで切ったことを、私は少し遅れて知った。

「……藍のせいだから」
「えっ? ……〜〜っ」

 深い、深いキスをされた。熱が、感覚が、全身を伝う。長い間そうして、息が切れかける直前に架瑚さまは私の唇から離れた。
 そしてそれを最後に眠気に襲われたのか、架瑚さまの力が抜け、私を掴む力がゆるりと落ちた。
 私はゆっくりと架瑚さまから離れ、息を整えた。

(び、び、びっくりした……)

 本当に心臓に危ない。熱があったから仕方ないで許せるが、ちゃんと意識のある時に行われたら……そう考えると、身が保つかわからない。

「やっと離れてくれたな、このクソガキ」
「! 未玖」

 いつのまにか未玖が隣にいた。
 その言葉だと、さっきまでのを見られていたということになる。ううっ、恥ずかしい……っ。

「藍」
「ん?」
「架瑚はどうする?」
「どうするって、どういう意味?」
「妾が仕置きをするかどうかという意味だ」
「……今の架瑚さまは弱ってるから仕方ないんだよ。お仕置きだなんて、しないで。だめだからね」
「だが風邪が……」
「『絶対治癒』を持ってるから、多少は平気だと思うよ」

 『絶対治癒』は外傷を治すことができても、ウイルスや心の傷は目に見えず、想像しにくいのでまだ治すことができない。
 これから特訓して、治せるようになりたいと思っている。

「心配してくれてありがとうね、未玖。でも、架瑚さまにそんなことしたらだめだからね」
「……藍がそう言うのなら諦めざるを得ないな」

 未玖が諦めてくれてよかった。
 なんだかんだ言って、未玖は私に甘いのだ。

「だが気をつけろよ」
「? なにに?」
「架瑚の意識がしっかりとしていないということは、襲われてもおかしくないということだからな」
「……、……! そ、そんなことないと思うけどなぁ……」
「架瑚を舐めると痛い目に遭うぞ。良くも悪くも、な」
「うっ……」
(き、気をつけないと……!)

 まだそんなことはされていないが、未玖がそういうのなら十分可能性がある。その後、私は綟さまとも交代しながら架瑚さまの看病をした。
 後日架瑚さまにあのキスのことを遠回しに尋ねると、覚えていないようだった。覚えていたらと思うとまたされそうで少しビクビクしていたので、少し安心したのだった。


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