切ないほどに、とろける恋
一生懸命になって走っていると、見慣れた光景が見えてきた。
家に戻って来れたみたい。
アパートの外階段を登ると、部屋のドアが見えてくる。
窓は開いたままだ。
勢いをつけて、ぴょんと窓枠に飛び、部屋の中に入ると、ほんのりと暖かい空気が残っていた。
帰ってきたけど、私は窓が閉められないから、窓は開いたまま。
私がいれば、泥棒が入ってきても、何とか追い払えるはず。
でも、どんどん冷たい空気が家の中に入ってくる。
寒いからお布団の中で温まる。
うとうとしかけた頃だろうか、バタンと玄関のドアを開ける音がした。
「ミヤ!外出た?」
奏斗くんは少し怒っているようだった。
窓は開いたまま。
奏斗くんは静かに窓を閉める。
「どうして外出たんだよ。万が一、事故に遭ってたらどうするんだよ!」
どうやら、奏斗くんは私のことを心配してくれていたようだ。
でも私は何だか嬉しくない。
だって、私が喋っても言葉が通じないから。
知らん顔してベットの中に潜っていると、奏斗くんは私を抱き寄せた。
「ほら、肉球がこんなに冷たくなってるじゃん…凍傷でもしたらどうすんだよ…」
私の肉球を大事そうに温める。
奏斗くんの手は、いつも通り温かい。
奏斗くんの温かい手を私は握ることはできない。
あの女の子は握ることができる。