君が死ねばハッピーエンド
家に着いたら出掛ける準備でママがバタバタとしていた。

パパはもう済んでいるみたいで、ソファに座ってコーヒーを飲んでいる。

「シイナ?バイトに行ったんじゃなかったのか?」

「うん。ちょっとね。しばらく休みになるかもしれない」

「何かあったのか?」

「うん。ちょっと」

「ちょっとってお前…」

「パパー。あんまりしつこく聞かないの。嫌われちゃうわよ」

「いや俺は心配で…」

「ママ、そのスカート綺麗な色だね」

Aラインのロングスカート。ママはスタイルがいいからよく似合っている。
耳元で揺れているゴールドのピアスも素敵。

「ありがとう。今日は?もう家に居るの?」

「うん。もうすぐ朔が来るよ」

「あら。そうなの」

「朔くんか!顔を合わせるのは久しぶりだなぁ」

「パパ、変なこと言わないでよ」

ママがパパを嗜めながら髪にヘアオイルをつけている。
ふわっとオーガニック系のいい香りがした。

「今日はどこにデート?」

「映画よ。ママの好きな俳優さんが久しぶりに主演してるのよ」

「そうなんだ。私達も昨日映画館行ったのに満員で観れなかった。いいなぁ。ママ達は大丈夫?席空いてるかな」

「大丈夫よ。前売り券買ってるから」

ママが嬉しそうに、ふふって微笑んだ。

さすが、大人だ。
私達とは計画性も違った。

羽織ったままだったコートを脱いでいたらインターホンが鳴った。

私やママよりも先にパパが玄関に飛び出した。
その背中を私とママは呆れた表情で見送った。

玄関から「おはようございます」って落ち着いた朔の声と、「朔くん!久しぶり!」ってパパのやたらと大きすぎる声が聞こえた。
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