君が死ねばハッピーエンド
一日が経つのって本当に早い。

授業は大嫌いだし、一時間、一時間はすごく長く感じるけれど、気付けばあっという間に放課後になっている。

文化祭まであと二週間。
今日も細かい準備で放課後に残ってくれる人が居る。

私の担当の大道具はもう完成していて、今日はバイトがあるから放課後の作業はパスさせてもらった。

ちーちゃんは所属している美術部で展示する個人の絵画を仕上げに、放課後は美術室にこもっている。

「シイナ、帰るの?」

「うん。今日バイトなんだー。終わったら連絡するね」

「俺も帰ろっかな」

「何言ってんのー」

お化け屋敷に来てくれるお客さん役、お化け役で実際にメイクをして衣装を着て通しでシミュレーションしてみるらしい。

お化け役の人達がメイクをして貰ったり、ヘアセットをしたりしている。

ヴァンパイアの朔は、メイクの影響かますます透明感が増して、相変わらず美しい。

「また着替えるの待ってたら私バイトに遅刻しちゃうよ」

「休めばいいじゃん」

クスクス笑っていたら、朔が私の小指の先に触れた。

「はいはーい。血はまだ吸わないでねー」

朔のヘアセットをしようとやってきた女子が私達を引き離す。

私達のことはクラスのみんなが知っていて、朔は恋人には意外と甘えるほうだって噂されていた。
そのギャップも“イイ”らしい。

きっと何をしても、朔は認められるんだと思う。

「じゃあね。練習頑張って」

手を振って教室を出た。

廊下の窓の外から見える裏庭の木が、茶色くなった枯れ葉を寒そうに揺らしている。
あとちょっとで落ちそうだった。

そう言えば、朔の指が冷たかった。
文化祭が終わればすぐに冬がやってくる。

今朝、朔と繋いだ時の手のひらの温度は憶えていない。

目の前の、名前も知らない木。
明日になったらこの葉っぱが落ちてるかどうかすら、私は思い出さないんだと思う。
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