君が死ねばハッピーエンド
店長が一つ、息を吐いてからママに言った。

「お母さん、申し訳ないですが、シイナちゃんと二人で話しても?」

「えぇ、もちろん。私はコーヒーをいただいてきますね。日頃は恥ずかしいから絶対に来ないでって止められてるんです」

「でしたらうちはナポリタンがおすすめですよ」

「そう言えばお昼がまだでした。いただきます」

ママが店長に会釈をして、「ゆっくりお話してきなさい」って私に言って、事務所を出た。

バイトをしていた時は賄いでナポリタンをよく食べていたけれど、既に懐かしく感じるその香りを思い出すと、自然とお腹が鳴ってしまって、店長に笑われた。

コーヒーの香り。
事務所にまで聞こえてくる客席の笑い声。

全部が懐かしくて、あったかくて、早くこの場所に戻りたい。

「ごめんね。引き止めちゃって。お腹空いたでしょ。もうすぐ一時だもんね」

「恥ずかしいから言わないでください」

「ごめんごめん。それで、なんだけどさ」

「はい」

「渚、辞めたよ」

「え…?」

「受験を控えてるし、どっちにしても、その…停学中はさ、こっちとしてもシフトに入れてあげられないわけ。もちろん私達はみんな渚のこと疑ってない。悔しいよ。すごく」

「やっぱりそうですよね…私…」

「シイナちゃんは?どう思った?」

「渚先輩はズルいことも嘘も嫌いな人です。そんなことする人だってどうしても思えません。状況的に何を言っても信じてもらえないように、本当の犯人に操られてるって思うんです。でも…ずっと言えなかった」

「なんで?」

「私が渚先輩を庇えば庇うほど、親友や彼氏を傷つけてしまうから」

「それも…なんで?」

「親友も彼…朔も、私を助ける為に一生懸命になってくれました。でも私は朔に“助けて”って言えなかった。ずっと引け目を感じてたんです。朔はその…容姿もいいし勉強もスポーツもなんでもできて、人気者でした。なのに特に取り立てて褒めるようなとこも無い私みたいな平凡な女と付き合ってくれて、それだけでもずっと周りの目を気にしてたんです」

「シイナちゃん、自分を卑下し過ぎだよ。シイナちゃんの魅力的なところを知ってるからこそ、ここのスタッフだってあなたが好きなんだから」

「…ありがとうございます。でも私はずっと朔と釣り合ってない自分が嫌いでした。だからこの一連の事件のせいで朔に負担をかけて、愛想を尽かされることが怖かったんです」

「でも、彼はそうじゃなかったんでしょ?」

「はい。ずっと私が“助けて”って言うのを待ってくれてました。それだけじゃない。実際に何度も声を掛けてくれたり、犯人を突き止めようとして頑張ってくれてた。それなのに私は、いざ渚先輩が犯人じゃないかってなった時に、先輩のことばかりを朔に訴えたんです」
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