君が死ねばハッピーエンド
「何を訴えたの?」

「“先輩を信じて”って」

「信じて…か」

「今まで一度も自分から懇願したことなんて無かったのに、私は唯一先輩のことを訴えました。先輩はそんな人じゃない、私は先輩のことをよく知ってる、お願い信じてって」

「それは…渚が聞いたら嬉しかっただろうな。でも…」

「はい。朔のことは酷く傷つけました。他の男のことばっかりって。じゃあ誰が犯人だったら満足なんだよって言われました」

「うん…」

「きっと誰が犯人であっても私にとっては悲しいことには変わりありません。でも先輩のことはどうしても犯人だって思えなかった。それでも私が渚先輩を庇うほどに朔を傷つけてしまうんです。それで、先輩が犯人かもってなった時も、私の私物を持ってたなんて、盗まれたんじゃないって言い張るんなら二人で頻繁に会ってたんじゃないかって。そんなことは絶対に無いって誓えるのに」

「シイナちゃんは本当はどうしたいの?」

「渚先輩が本当に犯人だったらすごく悲しいです。どこかに犯人が潜んでるかもしれないって思うと怖いけど。でも…私が本当に守らなきゃいけないのは朔なんですよね。朔の気持ちをこれ以上裏切ることだけはできない」

店長が事務所のテーブルに置いてあった缶コーヒーを一口飲んだ。
そう言えばここでもコーヒーは提供しているのに、店長はいつも決まった缶コーヒーを飲んでいる。
こだわりがあるのかなぁなんて思った。

「私達もさ、渚が犯人だってどうしても思えない。だから警察にも報告してないし、店付近のパトロールも続けてもらえるようにしてる。辞めることだけは止められなかったけど」

「どうしてもですか?」

「まぁ、この時期に辞める受験生は珍しくないし、シイナちゃんと一緒で休学中は働けないしね。そうしたらもう一月でしょ。それこそ続けるって言っても、もう時間も無いしね。それに…」

「それに?」

「渚はたぶん、今期の受験は受けないと思う」

「え?」

「この停学処分はかなり内申に響くと思うよ。休学してる間の学校の試験だってあるし。追試で卒業はできるだろうけど、たぶん一浪して、来期…かな。試験くらいなら渚は優秀だから余裕だろうけどさ。たとえ潔白が証明されてもしばらくは…ね」

「私のせいだ…。渚先輩が私に関わったりしなければ…」

「シイナちゃん。渚はシイナちゃんのそういう言葉、望んでないよ」

「でも!」

「シイナちゃんがそうやって自分を責めるほどに渚だって悲しい気持ちになるんだよ。あのね、正しい人間は絶対に負けたりしない。それに私達だってついてる。絶対に本当の犯人を炙り出してやろう!渚の為にも。それからさ」

「はい」

「渚とシイナちゃんはしばらく連絡を取らないほうがいいって言っといたんだけど、いいよね?」

「そうですよね…」

「また連絡取ってることが犯人なり、彼氏にバレるとさ、厄介かなって」

「はい。ありがとうございます」

「うん。じゃあ、またなんかあったらすぐに連絡して。電話でもいいし、私はいつもここに居るからさ」

「店長」

「ん?」

「店長って本当にかっこいいですね」

「お、私と付き合うかー?」

店長の悪戯っ子みたいな笑顔が好き。
こんなに奇跡みたいな出会いはそうそう無い。
それは渚先輩も同じだ。

ここではもう、一緒に働けないけれど、どこに居たって私達は仲間なんだから。

私達は正しいんだって。
犯人に証明できるまで、私は負けないでいよう。
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