君が死ねばハッピーエンド
「どれだけ優越感に浸っていても、朔が告られたり女の子の話をするたびに死にたくなった。テレビの中のアイドルだって許せなかった。私だけを見て欲しくて、あからさまにちょっかいを出すようになった」

「どんな風に?」

「親の前でも友達の前でも構わず腕組んだりしてさ。家では“恋人ができた時の練習しようよ”なんてキスしようとしたりしてさ。私の行動はエスカレートしてた。朔は絶対にそれを止めてたけど。お父さんが最初は私を叱ってさ。お母さんと一緒に”千種は頭がおかしいんだ“なんて言うようになった」

「ちーちゃんの前で?はっきりとそう言うの?」

「そう思われるから辞めなさい、って程度だったかな。でも朔は絶対に私を叱らなかった。”ただのスキンシップだから許してあげて“って。そしたらさ、今度はお父さんが朔に”だったらお前が千種をたぶらかしたんだろう“って言い始めた。私は朔に”そうだよ“って言って欲しかった。”千種が自分に恋愛感情を持つように仕向けたんだ“って」

窓の外がオレンジ色からどんどん黒に変わっていく。
アウターは羽織ったままだったけれど、手足が冷たくて、アウターの前をギュッとたぐり寄せた。

「朔はね、“千種は可哀想なんだ”って言ったの。“友達が少ないから寂しいんだ”って。“だから俺に執着して、恋愛ごっこしてるだけだ”って。そんな私を両親は汚い物を見る目で見始めた。私を見ていると自分達まで頭がおかしくなりそうだって。なんで普通で居てくれないのって。両親は本当は愛し合ってた。私が“普通”で居さえすれば、今も四人で暮らしてたんだと思う。でも私のことで話をするたびに、お父さんとお母さんのいさかいも増えてきて、しなくていい喧嘩が増えて、家族は修復不可能になった。それで私達が小学校を卒業した時に離婚したの」

「朔はお父さんに、ちーちゃんはお母さんに引き取られたんだね」

「そう。朔達は今の家がある、私とお母さんも暮らしてた家にそのまま残った。私とお母さんは、養育費だけを貰って、この街に引っ越した。元の家もここからそう遠くないでしょ?でも学区が違うから中学は離れちゃって。毎日本当に死にたかった。朔に会いたくて堪らなかった」

「ちーちゃんとお母さんは…ちゃんと関係は修復できたんだよね?」

「あはは。できてないよー。お母さんは本当は今だって私と二人きりで過ごすのは嫌だって思ってる。シイナに優しかったのは私との二人の空間を切り裂いてくれるから。シイナが娘になってくれたら嬉しかったんじゃないかな」

「そんな…」

「朔がうちの高校を受験するって聞いた時、迷わず私も即決したの。両親も連絡は取り合ってたからさ、知ってたんだよ。もちろん反対された。“シイナと同じ高校に行きたい。シイナまで居なくなったら生きていけない”って両親には懇願したの。それに今は彼氏が居るんだって嘘までついた。彼に過去を知られるのだけは嫌だって名演技まで打って。そしたら、“他人のふりをすることを条件に”私は高校の受験が認められた。その瞬間から呼吸が軽くなった。生きてるって実感できた。朔の為ならなんだってできるって本気で思った」
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