君が死ねばハッピーエンド
六時くらいになってくると放課後を楽しむ学生や、退勤後の社会人で店内は一気にお客さんが増える。

この時間帯にフードをオーダーするお客さんは少ないけれど、ランチタイムよりものんびりと過ごす人が多くて、一席の滞在時間が比較的長くなる。

来客数は増えるけれど、一度オーダーが完了すればこちらがすることは特に無くて、時間を持て余してしまう。

食器を下げて洗ったり、レジ応対をしたり、仕事の取り合いになる。

でも空いた時間にスタッフ同士でコソッとお喋りする時間も楽しい。

「シイナちゃん」

「渚先輩」

「ちょっと落ち着いてきたね」

「そうですね」

八時。退勤まであと一時間。
厨房のほうもほとんどすることが無くなってきたみたいで、夜九時にはフードのオーダーがストップするから、もう出なさそうな材料の片付けや掃除が始まったみたいだ。

渚先輩もホールに戻されて、「最後の一時間ってなんか長いんだよなぁ」って呟いた。

「あのさ」

「はい?」

「さっきはその…ごめんな」

「何がですか?」

「だから…送っていくってしつこかっただろ。ちょっとキモかったよな」

渚先輩が言ったことを頭の中で繰り返して、それから笑ってしまった。

「え、そんなこと思ってませんよ。もしかしてずっと気にしてくれてたんですか?えー」

「笑うなよー!断ってんのにしつこくされたらさ、女の子は…怖いだろ?」

「いやいや、優しさじゃないですか。そんなこと気にしてたんですね」

「気にしすぎてオーダー間違えた」

「えー?」

「明太子パスタなのに最後明太ソース忘れた」

「あはははは!動揺しすぎですってー!そんなオーダーありましたっけ?」

「こっちに流す前に副店長が気づいてくれたんだよ」

「あーあ。バレちゃいましたね」

「ほんと焦ったって。シイナちゃんのせいだなコレは」

「いやいや、渚先輩が”キモい“せいでしょー」

「おい!」

おかしくて笑っていたら、厨房から出てきた店長の咳払いが聞こえて、私達は叱られた子どもみたいにピタッと姿勢を整えた。

渚先輩の人気の秘訣はこういうところなんだろうな。

全然気取ってなくて、相手の気持ちばかりを考えている。

いい人だなぁって感心すらしてしまうくらいに。
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