君が死ねばハッピーエンド
「ちーちゃんのことは?」
「落ち着いた頃に面会ができたらなって思います」
「そうだね。その時は俺も話ができたらいいな」
「まだ気持ちに整理はつきません。でも、ちーちゃんにとって一番苦しいことは″許されること″なんじゃないかなって思うんです」
「許されること?」
「はい。ちーちゃんはずっと憎しみや怒りを原動力にして生きて来ました。そうすることで自分を保っていたんだと思います。私が同じように苦しんでちーちゃんを憎み続けることで、自分が朔を愛した重みや自分の存在を私達に植え付けた証になるのかなって。分かんないですけどね…。許されてラッキーって思うだけかもしれないけど。でも許すことは忘れるってことじゃないから。私が前を向いて生きていく為には一つずつでも許す勇気も必要なんじゃないかなって」
渚先輩が私に向かって差し出しかけた手の平をギュッと結んで、ストンと腕を下ろした。
「俺がシイナちゃんの彼氏だった頭を撫でてあげるくらいの権利、あったのにな」
「もう。怒られますよ」
「ほんとだな。シイナちゃん」
「はい?」
「それでも俺は、今でもシイナちゃんを好きになったことは後悔してないよ。君は何も悪くない」
「先輩…。先輩…ありがとうございます…」
事件の日以来、初めて涙を流した気がする。
病室の硬いベッド。
見慣れない白い天井。
薬品の匂い。
誰の話を聞いてもテレビの報道を観てもどこか上の空で、本当は自分に関係無い世界の話なんじゃないかって思い込もうとした。
ママの泣き腫らした目。
そうさせたのは私なのに、それでも、今まで以上に愛情を向けてくれる両親の前で、私が泣く権利は無いと思っていた。
″君は悪くない″
本当なら先輩はただの第三者で、私にさえ出会わなければこの事件もたまたま母校で起きた事件に過ぎないのに、人生の道を一つ狂わされた今でもそんな言葉をくれる人だ。
渚先輩のこれから先は絶対に大丈夫。あなたの人生にはもう幸せなことしか残ってないって、私に言う資格なんて少しも無いけれど、心から先輩の幸せを願った。
「そう言えば、先輩」
「ん?」
おやすみって言って病室から出ようとしていた先輩が振り返る。
「先輩が私の生徒手帳を持ってた時、なんではっきりと否定できなかったかって言うとね」
「うん」
「バイトで私の鍵を拾ってくれた時にロッカーが開いてたからです。だからもしかしてって思ったんですけど」
「あー…あったね、そんなこと。でも本当にアレは…」
「はい。分かってます。本当に監査の一環ですよね。カフェの営業が再開された日、ママと謝罪に行ったんです。その後店長と二人で話をしました。ロッカーのこともずっと引っかかってたから話しました。店長が過去の防犯カメラの映像で日付と大体の時間を何度も探って、休憩室の映像を探してくれました。先輩は、一個一個のロッカーの鍵穴を確かめて、私のとこの扉を一瞬開けただけで、閉じてました」
「そっか…」
「ごめんなさい。もっと早くそうしてれば良かった。謝りたかったけど連絡は控えたほうがいいって言われてたから。こんなに遅くなってしまいました」
「ううん。ありがとう」
「でもあの鍵に付いてたうさぎのキーホルダー、私のだって知りませんでした?」
聞かれた先輩は頭を掻いて、恥ずかしそうな顔で私から目を逸らした。
「知ってたよ。でもさ、そりゃ誰にも見られてたわけじゃないけど、一発でシイナちゃんを特定したらその…キモいだろ」
「落ち着いた頃に面会ができたらなって思います」
「そうだね。その時は俺も話ができたらいいな」
「まだ気持ちに整理はつきません。でも、ちーちゃんにとって一番苦しいことは″許されること″なんじゃないかなって思うんです」
「許されること?」
「はい。ちーちゃんはずっと憎しみや怒りを原動力にして生きて来ました。そうすることで自分を保っていたんだと思います。私が同じように苦しんでちーちゃんを憎み続けることで、自分が朔を愛した重みや自分の存在を私達に植え付けた証になるのかなって。分かんないですけどね…。許されてラッキーって思うだけかもしれないけど。でも許すことは忘れるってことじゃないから。私が前を向いて生きていく為には一つずつでも許す勇気も必要なんじゃないかなって」
渚先輩が私に向かって差し出しかけた手の平をギュッと結んで、ストンと腕を下ろした。
「俺がシイナちゃんの彼氏だった頭を撫でてあげるくらいの権利、あったのにな」
「もう。怒られますよ」
「ほんとだな。シイナちゃん」
「はい?」
「それでも俺は、今でもシイナちゃんを好きになったことは後悔してないよ。君は何も悪くない」
「先輩…。先輩…ありがとうございます…」
事件の日以来、初めて涙を流した気がする。
病室の硬いベッド。
見慣れない白い天井。
薬品の匂い。
誰の話を聞いてもテレビの報道を観てもどこか上の空で、本当は自分に関係無い世界の話なんじゃないかって思い込もうとした。
ママの泣き腫らした目。
そうさせたのは私なのに、それでも、今まで以上に愛情を向けてくれる両親の前で、私が泣く権利は無いと思っていた。
″君は悪くない″
本当なら先輩はただの第三者で、私にさえ出会わなければこの事件もたまたま母校で起きた事件に過ぎないのに、人生の道を一つ狂わされた今でもそんな言葉をくれる人だ。
渚先輩のこれから先は絶対に大丈夫。あなたの人生にはもう幸せなことしか残ってないって、私に言う資格なんて少しも無いけれど、心から先輩の幸せを願った。
「そう言えば、先輩」
「ん?」
おやすみって言って病室から出ようとしていた先輩が振り返る。
「先輩が私の生徒手帳を持ってた時、なんではっきりと否定できなかったかって言うとね」
「うん」
「バイトで私の鍵を拾ってくれた時にロッカーが開いてたからです。だからもしかしてって思ったんですけど」
「あー…あったね、そんなこと。でも本当にアレは…」
「はい。分かってます。本当に監査の一環ですよね。カフェの営業が再開された日、ママと謝罪に行ったんです。その後店長と二人で話をしました。ロッカーのこともずっと引っかかってたから話しました。店長が過去の防犯カメラの映像で日付と大体の時間を何度も探って、休憩室の映像を探してくれました。先輩は、一個一個のロッカーの鍵穴を確かめて、私のとこの扉を一瞬開けただけで、閉じてました」
「そっか…」
「ごめんなさい。もっと早くそうしてれば良かった。謝りたかったけど連絡は控えたほうがいいって言われてたから。こんなに遅くなってしまいました」
「ううん。ありがとう」
「でもあの鍵に付いてたうさぎのキーホルダー、私のだって知りませんでした?」
聞かれた先輩は頭を掻いて、恥ずかしそうな顔で私から目を逸らした。
「知ってたよ。でもさ、そりゃ誰にも見られてたわけじゃないけど、一発でシイナちゃんを特定したらその…キモいだろ」