君が死ねばハッピーエンド
朔と初めてちゃんと会話をしたのは、入学したばかりの五月。
新入生歓迎の遠足の日だった。

バスに乗って県営の運動公園に行った。
陸上競技場も併設されている大きな公園で、
私達の学校の生徒の他にもジョギングしている人や、子連れのママ達も沢山居た。

私とちーちゃんは木陰になっているベンチのそばにシートを敷いた。

同じクラスの、別のグループの女子達も何組か居て、朔や友達たちも近くでお弁当を食べていた。

「食べる?」

突然だった。

お弁当を食べ終わって、おやつ交換しに行く?ってちーちゃんと話していた時。

目の前に差し出されたチョコチップクッキーの袋。
中は個包装になっていて、まさにおやつ交換にピッタリって感じのお菓子だった。

座っている私とちーちゃんを見下ろすみたいに微笑んでいる朔の顔を、その時初めてちゃんとじっくり見た気がする。

白い肌。
長いまつ毛が下まぶたに影を作っている。
サラサラのストレートだけどやわらかそうな黒髪に触ってみたいって思ってしまった。

周りの女子達も朔に貰ったチョコチップクッキーを嬉しそうに食べている。

「た…べる」

「どーぞ」

朔が差し出している袋の中から一個つまんだ。
指先が震えている気がした。すごく緊張していたと思う。

「わーお。この一個で何万円もしそう」

冗談めかして言ったちーちゃんに朔が「何それ」って笑った。

私は、チョコレートが嫌いだって言えなかった。
あなたに声をかけてもらえて嬉しいって、あなたが選んだお菓子は大正解だって思って欲しくて、
「おいしいね」ってニコニコ笑ってた。
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