君が死ねばハッピーエンド
心拍数がかなり上がってるって分かった。

バクバクして、手も震えている。

保健室について、体調が悪いから少し休ませて欲しいと、ちーちゃんが保健室の先生に言ってくれた。

三台あるベッドは全部空いていて、窓際のベッドに腰を下ろした。

ギシッとベッドのパイプが軋む。
マットレスは硬くて、保健室全体が特有の薬品みたいな匂いがする。

空気の入れ替えをしていたのか窓が開いていて、吹き込む風は冷たかった。

保健室についたらすぐに出ていった朔が戻ってきた。

一時間目の授業はちょうど担任の時間だったから、自習になったらしい。

「シイナ、大丈夫か?」

「シイナ…ほんとに…本当にごめん…」

「私こそ驚かせちゃってごめんね。違うの」

「違う?」

「安心したの。やっとちーちゃんが分かってくれたことに」

「でも私、取り返しのつかないことをした。シイナの傷は一生消えないかもしれない」

「怖かった」

「うん」

「悲しかったし、消えちゃいたかった」

「うん…」

「なんで誰も信じてくれないんだろう。なんで私だったらそういうことするだろうってみんなが悪いほうに信じてるんだろう。友達だったのにって」

「…」

「今回のこと、私はきっと忘れない。日常の中でふっと思い出して苦しくなるかもしれない。疑心暗鬼になって何も信じられなくなるかもしれない。大袈裟かもしれないけど、それくらい怖くて不安だった」

「シイナ」

朔が私の手をギュッと握る。
あったかい。

「でもね、ちーちゃん」

「うん…」

「ちーちゃんも辛かったね。悲しかったね」

「シイナ…?」

「ぐちゃぐちゃになっても、ちーちゃんの絵はすごく綺麗だって分かった。惹き込まれるくらい。綺麗な青だった。沢山の人にちーちゃんの絵を見て欲しかった。悲しかったね」

「シイナ…私…」

「絵を、辞めないでね」

「え?」

「描くことがもう苦しくなっちゃったかもしれない。これから先、ちーちゃんも何度も思い出しちゃうかもしれない。でも絵を辞めないで。また綺麗な絵を見せてね」

「あ…ありがと…シイナ…ごめん…ごめんなさい!」

朔と手を繋いだままの私に、ちーちゃんが覆い被さるように抱きついて、泣きじゃくった。

「もー、肩濡れちゃうじゃん」なんて茶化したけど、私もおんなじように泣いていて、涙を止めようとしてグッと力を入れた喉が痛かった。

涙は止まらなかった。

朔が優しく頭を撫でてくれた。
< 57 / 156 >

この作品をシェア

pagetop