君が死ねばハッピーエンド
まだ九時になる前だった。

カフェを出ると人だかりは減っていた。

割れたガラス壁を隠すようにブルーシートが張られていて、ガラスの破片もバラ撒かれた私の写真も綺麗に片付けられている。
前を通り過ぎる人達がいつもと違う雰囲気を不思議そうな表情で歩いていく。

警察の人が、本部からの要望で報道規制を張ってくれたって言っていた。
でもSNSを開いて街の名前を検索すれば、今日のことが一部では既に話題になっている。

私の写真まで拡散している人は居ないけれど、カフェの写真や一部始終、″店員らしい女の子が狙われてるっぽい″とか…。
この街を知っている人ならこのカフェをすぐに特定できるし、働いているスタッフの顔だって容易に想像できるだろう。

防犯カメラには、バールみたいな物でガラスを割る姿も映っていた。
なんの躊躇も無くガラスを割って、写真をバラ撒く。
しばらく入り口前をうろうろして、犯人はカメラの前から姿を消した。

写真に写っていた私を見れば嫌でも分かってしまう。
犯人は、私の家も学校もバイト先も交友関係も全て知っている。

背筋がゾッと冷える。
危険に晒されているのは私だけかもしれないけれど、周りの大切な人達の顔ばかりが頭に浮かんだ。

家族が被害に遭ったらどうしよう。
ちーちゃん、朔…渚先輩や守ってくれようとした店長、スタッフ、クラスメイトにだって何かされてしまうかもしれない。

心臓が早鐘のように脈を打つ。
考えても考えても、なんでこんなことになったんだろうって悲観的で生産性の無い感情ばかりが溢れてくる。

深呼吸を三回繰り返してから、私はポケットからスマホを取り出した。
震える手で操作して、朔に電話をかける。

今日、もし会えるなら会いたいって朔は言ってくれた。
送別会があったら会えないけど、連絡するねって約束をした。
ギリギリでもいいからって言ってくれた朔に、こんなに早い時間に電話をするなんて思っていなかった。

びっくりさせちゃうかもしれない。
また不安にさせてしまうかもしれない。

でも朔に会いたい。
今すぐに。
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