ミル*キス
「マジびびったし」


石でできた小さなベンチ。

そこに腰掛け、大きく息を吐き出した。


「ほんとの子供だと思った?」


隣に座るスミレさんはクスクス笑ってる。


「チアキ君、気をつけてね」


チアキ君と呼ばれた男の子は、「はぁい!」とうれしそうに返事をして、ベンチ前の遊具の方へ向かった。


「あの子、生まれてすぐにお母さんが亡くなったらしくて……。
それで、あたしのこと、母親みたいに慕ってくれてて、『ママ』って呼んでるの。
否定するのもかわいそうかなぁ……って思って、あたしもそのままにしてる。まぁ、実際あれぐらいの子供がいてもおかしくない歳だしね」


穏やかにそう話しながら、クスクス笑う。


「今、事情があって……知人から預かってるの」


「ひょっとして……。だから毎日決まった時間に店を出てたんですか?」


「うん。24時間預かってくれる保育園だから、ほんとは、閉店後に迎えに行ってもいいんだけどね。
でも、やっぱり夜ご飯食べたり、一緒にお風呂入ったり。そういうの、ちゃんとしてあげたいじゃない?
いつもチアキ君を寝かしつけてから、お店に戻ってたの」


「そうだったんですか」


スミレさんが店を抜け出す理由がやっとわかって、なんだかホッとした。


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