ミル*キス
そしてあっという間に、オレの家に着いてしまった。


「あの……良かったら、うち寄っていきませんか? コーヒーぐらい淹れますよ? オレも結構上手くなったし。スミレさんていつも人に淹れてばかりでしょ? たまには他人の淹れたコーヒー飲んでみませんか?」


なんて、ダメもとで誘ってみる。


「こんな時間に? ご家族に迷惑でしょ?」

「今夜はオレ一人なんです」

「そう……」


ほんのちょっと考え込むスミレさん。

だけどエンジンを止めることもなく、ハンドルをにぎりしめて前を見る。


「それならなおのこと遠慮しておくわ」

「ははっ。ですよね……」


もう、これ以上しつこくしても逆効果だ。

そう判断して車を降りることにした。


「ありがとうございました」


それだけ言って、ドアを閉めた。


軽く手を上げて、スミレさんは車を発進させた。


家に入り、ほんの少し濡れた髪や肩のあたりをタオルで拭く。

熱いシャワーでも浴びたい気分だったけど、キッチンに直行した。


やかんに水を入れて火にかける。


沸騰するまでどれぐらいかかる?

その間に彼女はやってくるかな?

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