ミル*キス
背の高い、スーツ姿の男性が小走りで近づいてくる。


歳はスミレさんよりちょっと上って感じかな。

黒っぽい細身のスーツをビシっと着こなしている。

小さめのメタルフレームの眼鏡が似合ってて、知的な印象だ。



その男はオレのことを、不思議な生物でも見るかのような目つきで眺める。


「あれ? 知り合い?」


いやだから、それはオレのセリフだってば。


だいたい、「スミレちゃん」だなんて馴れ馴れしすぎだろ。


こいつ、誰だよ?

って、ムッとしながら睨む。


だけどスミレさんはいつものごとく冷静に、オレのことを男に紹介した。


「“サトシ君”。お店、手伝ってくれてたバイトの子。今、偶然会ったの」


は?

今、何て言った?

“サトシ君”?

いつもオレこと名前で呼ばなかったくせに、なんでこのタイミングでそう呼ぶんだ?


それに、オレはたしかにラファロでバイトしてたけども。

それだけの関係じゃないだろ?


言いたいことは山ほどある。

だけど、なんとなく言い出しにくくて黙っていると、男は勝手に納得する。


「ああ。君が……。そうか。色々ありがとう」


なんでテメェに礼を言われなきゃならねーんだよ


って、文句の一つでも言ってやろうとしたその時。



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