ミル*キス
「チアキって……」


記憶をたどる。

チアキ君というのは、たしかスミレさんが知人から預かっているって言っていた子供だ。


あの子のためにスミレさんはいつもラファロを抜け出していたんだ。


「桂木さん、長期出張でこの3ヶ月間、シンガポールにいたの。だからその間チアキ君はあたしが預かっていたのよ」


「そうやったんや……」


それにしても随分親密な仲なんだな……って思う。


いくら仕事のためだとはいえ、自分の子供を赤の他人に預けるなんて。


そんな疑問が顔に出ていたんだろうか。

スミレさんは桂木との関係を説明してくれた。


「前にも話したけど……。桂木さんの奥さんが亡くなったのはチアキ君が生まれてすぐだったのね」


「ああ」


「それからは、桂木さんは実家にもどってご両親と一緒にチアキ君を育てていたらしいの。
でも2年前に大阪に転勤が決まって……。桂木さんはチアキ君をご両親にまかせるつもりだったみたいなんだけど、チアキ君はどうしてもパパと一緒に住みたいって言ったらしくて。
それでこっちに連れてきたって……。
でも男の人が仕事をしながら一人で子育てするなんて、本当に大変だったと思う」






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