ミル*キス
「……え……」



――ドクンッ


一瞬、心臓が止まるかと思った。


絵に描いたようなエリート。

子持ちというハンデはあるにしろ、結婚相手としては申し分のない男だ。

そんな男との結婚を断る理由なんてどこにもないような気がしたから。


どう考えても浪人生のオレに勝ち目なんてない。


次に言われる言葉を予想して、オレは拳を握り締めて目を閉じた。


覚悟を決めたその時……


スミレさんの優しい声が耳に届いた。



「断ったけどね」


「へ?」


目をパチンと開ける。

予想もしていなかった答えに、思わず間抜けな声を出してしまった。



「断った……?」


「うん」


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