ミル*キス
左側の耳たぶ。

一瞬、2つピアスをしてるみたいに見えた。

だけどそれは、1つは本物のピアスで、もう1つは違った。

ホクロだ。


オレの中に10年前の記憶がよみがえる。


まさか。

あの時の……あの人なのか?


そう思った瞬間、鼓動が早くなるのを感じた。


いや、落ち着けって。


耳のホクロぐらいで決め付けるわけには……。


でも、顔もこんな感じだったような気がする。

薄暗いあの場所で見た彼女はゾッとするほどキレイだった。


あの人の名前は……なんだっけ?


たしか……。


「スミレちゃん!!」


オレが思い出すよりも先に、カウンターの一番端にいた人が彼女に声をかけた。


「コーヒーおかわりもらえる?」


そうだ。

あの人はたしか、自分のことを“スミレ”だと名乗っていた。



「はーい」


スミレさんは、その客の方へ近づいていく。


ほんの少しテンポのずれた足音が響く。


きっと片足が不自由なのだろう。



オレは確信した。


間違いない。


彼女だ。


まさかこんなところで再会するなんて。


スミレさんはあの日のことを……

オレのことを……



覚えているだろうか。




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