ミル*キス
「大丈夫、大丈夫。今から1時間みっちり研修するし。それに6時以降はほとんどお客さん来ないのよ」


「1時間で覚えられるんすか?」


うんざりして、棚にずらりと並べられたコーヒー豆や茶葉が入った缶を眺めた。

言っとくけど、オレ、記憶力悪いぞ。


「マニュアルもあるし。ケンジ君も最初はこれ見ながら頑張ってたよ」


お手製のマニュアル本なのだろう。

B5サイズのノートを掲げた。


「それでもわからないことがあったら、お客さんに聞けばいいし」


「客?」


「うち、常連さんばっかなの。あたしなんかより詳しい人もいるし。ね、ルウさん」


そう言って、カウンターの端っこに座っているお客さんの方を見る。

さっきコーヒーのおかわりを頼んだ客だ。


赤いメタルフレームのめがねをかけた女性が、さっきから触っていたノートパソコンから顔を上げた。

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