ミル*キス
「オレのこと覚えてませんか?」



「え?」


スミレさんはじっとオレを見つめる。


「そういえば、昼間もそんなこと言ってたね。どこかで会った?」



そう問いかける大きな瞳に吸い込まれそうになり、体がゆらりと揺れた。


過去の記憶がよみがえる。


どくんどくんって、脈拍が速くなる。

胸が苦しくなって……呼吸が乱れる。


それでも、なぜか聞かなきゃいけない気がしてきた。



「10年前……。茅野(カヤノ)神社の裏の雑木林。……覚えてませんか?」


その瞬間、彼女の顔色がサッと変わった。


漆黒の瞳が揺れて……不安そうな表情になる。

唇がかすかに震えているように見えた。


「アナタ……あの時の男の子?」


「はい」


「そう……あの時の……」


苦しそうに言葉を吐き出すと、スミレさんはうつむいてしまった。


「あの時……

スミレさんは何であんなところにいたんですか?」
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