ミル*キス
「あー。あかん、何も思いつかへん」


さっきからパソコンとにらめっこしていたルウさん。

ため息を吐いて、頭を抱えた。


ルウさん(おそらくあだ名。でも本名は知らない)は、聞いたところによると、本業はフリーのライターだそうだ。

そしてそれとは別に地元で小さな劇団をやっていて、脚本や演出などを手がけているのだとか。


いつもノートパソコンを持ってラファロにやってくる。

そして決まって、カウンターの一番端の席で、何かしら執筆している。


「スランプですか?」


そう尋ねると、パッと顔を上げて、またため息。


「そうやねん~。次の舞台の台本書いてるねんけどね~」


「へぇー。どんな話ですか?」


「ミステリーやねん。冒頭でいきなり殺人事件が起きるねん。で、被害者を甘いもの好きな人にしようかなぁ……って。それが謎を解く鍵になってる……みたいな感じで。どんな食べ物がいいか迷ってるねん。あんぱんとかドーナツってなんかありきたりじゃない?」


なるほど。

それでさっきから甘いもんの名前をブツブツ呟いていたんだな。




「そうっすね~。じゃ、ミルキーは?」
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