ミル*キス
「え? えーと……」


ちぃちゃんは、メニュー表をじっと見つめている。


「いっぱい種類があるね……」


「千春はコーヒーやめとけ。また眠れへんようになるで」


「ちぃちゃん、コーヒー飲んだら眠れへんようになるん?」


「そうやねん。こいつ、子供みたいやろ」


って、なぜかうれしそうにシィが答えた。


――お前に聞いてないっつうの。

つか、“千春”て。


シィは付き合いだしたとたん、ちぃちゃんのことを“千春”って呼ぶようになった。


なんか目の前ですげぇイチャイチャされてる気分になる。

オレはちょっとだけシィに意地悪をしてやりたくなった。



「じゃ、紅茶にする? キャラメルミルクティーは置いてないけどな」


そう言うと、ちぃちゃんはパッと顔を上げた。


彼女も覚えてたんだな。


高校生の時、オレは彼女にキャラメルミルクティーをおごったことがある。


あの頃シィは、ちぃちゃんではなく、別の女に惚れてた。

ちぃちゃんは自分の気持ちを押し殺して、シィとその彼女がうまくいくように願っていた。




「キャラメルミルクティー……なつかしいね」


「うん、また今度飲みに行こうか?」


「キャラメルミルクティー? なんの話?」


いかにも怪訝そうに眉を上げたシィがちぃちゃんに問いかける。


「うん、えーとね……」


戸惑う彼女の代わりに、今度はオレが答えてやった。
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