ミル*キス
一瞬スミレさんの体が固まった。


「だって、めっちゃ可愛いやん。恥ずかしがって名前隠したりすんのとか」


スミレさんは眉間にしわを寄せると、またモップを動かし始めた。


「……アナタのそういうとこ良くないと思う」



「え?」


「“可愛い”とかそういうの……。あんまり簡単に言っちゃダメだよ。深い意味はないんだろうけど。本気にしちゃう子もいるんじゃない?」



「あー……。ハハハ」


首の後ろをポリポリと掻く。

思い当たるふしがたくさんあって、あいまいな返事しか返せなかった。



「やっぱりね……」


スミレさんはモップで床を拭きながら、ハァとため息をついた。



だけど、その手がふいに止まった。


「ねぇ」


「はい?」


「昼間来てた子……可愛かったね」


「へ? 昼間?」

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