キスしないと出られない部屋
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朝ごはんを食べ終え、学校に向かう道中で真歩と芽生に会い、一緒に向かった。
「あぁ、今日こそばったり、推しと会いたい……いや、図々しいな。お目にかかりたい」
芽生が真剣な面持ちをして言うから、思わず真歩がツッコミを入れた。
「それ、同じ意味じゃないの? ていうか、芽生は厳しくない? 見たいなら、動画見れば良くない?」
そう言ったが、芽生はチッチッチと顔の前で指を振った。
「んもうっ! まーた、意地悪なことを言う! ねぇ、甘奈?」
私に話を振ったけれど、ごめん。朝、推しとキスをするなんて不純すぎる夢を見た私にとって、会う会わないって話は次元が違いすぎてちゃんと聞いてなかった。芽生、マジでごめん。
「え?あ、あぁ。そうだね」
「んもー、何その生半可な返事! 甘奈は、いつ推し様と会うか分かんないんだよ!? 神経を張り巡らせて!」
「芽生は何で朝からそんな元気なのよ」
たしかに、と同意してこくこくと頷いた。
私の日常は、いつも通りに戻ったのだ。いや、私が勝手に一夜の夢の中に先輩を登場させて、いかがわしい夢を見てただけなんだけど。
私は、陰から先輩を推す一人。人気者でイケメンな先輩と関われることなんて、きっとこの先もないんだから。あんな夢を見たなんて、誰にも言えないなーーなんて思ってた時。
「ねぇ、キミ達」
何度も脳内でリピートされた声が、背後から聞こえた。しかも、割と近い距離。三人で一緒に振り返ると、やっぱり、思った通りだった。