キスしないと出られない部屋


「うん! 甘奈なら分かってくれるよね? だって……あっ、いた!」

 一旦、スマホの画面を消すと窓の外を見て視線落とした。中庭の方を見て、目的の人物を見つけた。その人に向かって指差した。

「甘奈は、世良先輩を推してるもんねっ」

 そう言って、10人ほどの男女に囲まれた中心にいる世良 涼太を指差した。グッと親指を立てて言う芽生に、慌てて自分の口の前で人差し指を当てた。

「しっ。周りに聞こえちゃうから……!」

「あっ、ごめんごめん」

 軽くぺこぺこと頭を下げる芽生。

 なぜ、私がこう言うかというと--。

「キャーッ! 世良せんぱーいっ!」

「こっち向いてくださーいっ!」

 クラスの目立つ女子達が、窓を開けて大きな声で言う。どこから呼んだか分かるよう、両手をぶんぶん振っている。大声で呼ばれても、軽くへらっと笑うだけで、手を振り返したりそれ以上関係を発展させようとはしない。モテていることを鼻にかけず、色々な女子に愛想を振りまくことはない。かといって、誰かと付き合ってることもない……らしい。

 先輩は、みんなのアイドル的な存在。テニス部に所属してて、エースと呼ばれている。テニス部での功績だけでなく、勉強もできる。定期考査では、常に学年5位以内に入る。文武両道というやつ。そして、身長は175センチを超え、健康的な褐色の肌。整った顔立ち。甘いフェイス。

 モテないわけがないのだ。

 先輩のファンは多く、先輩を好きな人は可愛い子や綺麗な子が多い。

 だから、私のような普通の人が先輩に想いを寄せているのを知られるわけにはいかなかった。これは、私と芽生と真歩だけの秘密。

 芽生と仲良くなれたのは、私が先輩を推してることがバレたことがきっかけだった。同じ推し活をしている身として、ピンときたそうだ。

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