キスしないと出られない部屋


 ※※※

 ただ、先輩を遠くから見ているだけのはずだった。それなのに、まさか目の前にいるなんて。天地がひっくり返っても、あり得ないと思っていた。

 先輩が、顎に手を添えて「んー」と天井の方を見ながら言った。

「えっと……。とりあえず、現状を整理していこうか」

「そ、そうですね。それが、得策だと思います」

 私達は、どうしてここにいるのか分からない。

「ここは、キミの部屋?」

「いえ。先輩の部屋じゃないんですか?」

 普通の部屋と変わらない。白を基調とした家具で統一されている至って普通の部屋。

 私の部屋は、白とピンクの家具、小物を置いている。昔から可愛いものが好きで置いてるけど、子どもっぽいと言われる。

「違うよ。なんでここにいるんだろう。何か覚えてる?」

「いえ、気がついたらここにいたんです」

 お互いに、この部屋に来るまでの経緯を何も覚えていない。おかしなことというのは分かっているが、紛れもない事実だ。

「変だな。まぁ、部屋から出ればなんてことないだろ」

 そう言うと、先輩は玄関に向かった。

 まぁ、そうだよね。知らない部屋にいるから、さぁ一緒に暮らしましょう♡なんて展開なわけない。

 惜しい気持ちになりながら、先輩の後ろをついて歩き、玄関の方に向かった。

「早く出よう。この家の家主が現れて、俺達が泥棒と間違われても困るし」

「そ、そうですね……」

 こんな時に、残念なんて言ってられない。

 先輩が、玄関のドアノブに手をかけて回したが、ガチャ、ガチャガチャッと金属がぶつかり合う音が鳴るだけだった。

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