キスしないと出られない部屋
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ただ、先輩を遠くから見ているだけのはずだった。それなのに、まさか目の前にいるなんて。天地がひっくり返っても、あり得ないと思っていた。
先輩が、顎に手を添えて「んー」と天井の方を見ながら言った。
「えっと……。とりあえず、現状を整理していこうか」
「そ、そうですね。それが、得策だと思います」
私達は、どうしてここにいるのか分からない。
「ここは、キミの部屋?」
「いえ。先輩の部屋じゃないんですか?」
普通の部屋と変わらない。白を基調とした家具で統一されている至って普通の部屋。
私の部屋は、白とピンクの家具、小物を置いている。昔から可愛いものが好きで置いてるけど、子どもっぽいと言われる。
「違うよ。なんでここにいるんだろう。何か覚えてる?」
「いえ、気がついたらここにいたんです」
お互いに、この部屋に来るまでの経緯を何も覚えていない。おかしなことというのは分かっているが、紛れもない事実だ。
「変だな。まぁ、部屋から出ればなんてことないだろ」
そう言うと、先輩は玄関に向かった。
まぁ、そうだよね。知らない部屋にいるから、さぁ一緒に暮らしましょう♡なんて展開なわけない。
惜しい気持ちになりながら、先輩の後ろをついて歩き、玄関の方に向かった。
「早く出よう。この家の家主が現れて、俺達が泥棒と間違われても困るし」
「そ、そうですね……」
こんな時に、残念なんて言ってられない。
先輩が、玄関のドアノブに手をかけて回したが、ガチャ、ガチャガチャッと金属がぶつかり合う音が鳴るだけだった。