その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 そうすると、不思議と紙安はそれを通じてリューグの心に触れ、呪いを受け入れることが出来ていたのだ。

 もうほとんど戒めの解けた彼の心に残るのは、まるで光り輝く黒曜石のような、黒く小さな欠片一つ。

「俺のせいなのか……。俺が、父の言葉に背き、復讐などを望んだから」

 リューグは初めて妹の前で涙し、彼女に額を合わせる。
 そうして最後の一かけが、やっと紙安の心に受け渡されていく。

 それは――父が目の前で殺された時の記憶だった。



 リューグの父であるアロウマーク伯爵。
 彼は焼け崩れる屋敷の中で、王国から来た兵士と刺し違えながらこう言った。

『リューグ……許せよ、全てを。怒りや憎しみを抱えたままでは幸せに生きてゆく事は叶わない。その子も、国も……何も恨まなくていい。私もエレインもそれを望んでいる。さあ、何もかも忘れて行け……』

 アロウマーク伯爵は、それだけ言うと妻の亡骸に目を閉じさせた。
 囮になろうと声を上げ、燃え盛る屋敷の奥へ彼の影が消えてゆく。
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