その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 力一杯目の前の推しに抱き着いたのだ。

「おいおい、どうしたステイシア。入学が今になって不安になったのか?」
(これが、夢でも現実でもなんだっていい……。あのリューグが、目の前にいる!)

 抱き締めた体の温かさに、紙安は蕩けた。
 画面やアクリルプレートの冷たい手触りや、抱き枕のふわふわした感触ではない。しっかりとした筋肉の感触が彼女の腕の中にある。

「仕方ないやつだ……。まだ小さい頃の感覚が抜けていないのか」

 そして彼も紙安を気遣うように抱き返し、背中を撫でてくれる。
 その優しい手つきに紙安は涙が出そうになった。
 誰かの身体に触れる機会なんて、もう長いことなかったのだ。

 今この腕の中で命を落とせるなら本望……!
 そんなことを思った矢先、紙安の耳にドアノックの音が届く。

 リューグが入室を許可すると、静かに開いたドアから女性たちが姿を現した。
 やはりいずれもどこか見たことのある西洋風の衣装だ。
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