その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 だがリューグは照れたように顔を背け、片手を差し出す。
 意外と奥手。そんな一面も微笑ましく、紙安は口元は緩ませそっと自分の手を添えた。
 ステイシアと一緒だった頃から変わらない、胸を温かくさせる気恥ずかしさと一緒に。

 その時……。
 背中から吹いた風が……追いかけるかのようにふわりと黒い花びらを運び、紙安の後ろ髪に貼りつかせた。

「おっと……じっとしてろ、今取るから」
「は、はい……」

 リューグはそれをそっと摘まむと、空へ逃がす。
 ふわふわと目の前の空を踊るビオラの一片。
 それにもしやと思って、紙安は耳を澄ませた。すると……。
 
『――この先、覚悟しなさい! お兄様を悲しませたら、いつでも夢の中であんたを引っぱたいて、気合入れ直してやるんだからね!』
(あっ……)

 声が聞こえた。どこか勝ち気で可愛い、そんな憎まれ口が……。
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