その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 反動で冷静になった彼女から、リューグの手が離れる。
 それが名残惜しく眉を下げると彼は、今度は頬を軽く指で挟んだ。

「済まないな。お前もそろそろ、一人前の女性として自立しなければならないのに……家族だからとつい構ってしまう。俺の妹離れのためにも、早くお前を託せる俺以上に強く誠実な男を見つけてやらなければな」

 父親代わりとして、結婚相手を探してくれる。
 そんな彼の気遣いにどうしてか、紙安は強い苛立ちを覚えた。
 次いで出た言葉は、紙安のものかはたまた、身体の主のものか。

「そんなの、居るわけないじゃありませんか……」
「そう言うな。もしこれぞと思う男を見つけたら、家に連れてこい。お前を幸せにできる奴かどうか、父上や母上がいない分この兄がしっかりと見極めてやる。だが覚悟しろ、俺の査定は厳しいぞ?」
「だから、居ませんってば」
「ははは、そうか。それは兄として、複雑でもあるな。お前くらい可愛い娘は滅多にいないだろうに」

 冗談めかした口調で微笑むとリューグは立ち、紙安に背を向ける。

「この家のことは考えなくていい。自分が幸せになることだけを考えろよ……。さて、我が妹君よ、もう夜だが夕食はどうしたい? 太りたくないというのなら、一食抜くのもありだがな」

 感情のジェットコースターで体力をすり減らした紙安は、その言葉に飛びつく。
< 20 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop