その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
「シアちゃん……どうかした? 美味しくなかった」
「ん~ん、違うよ。ちょっと人生について考えてただけだか……らッ!?」

 それはいきなりだった。
 ひとりでに、紙安の右手が水の入ったグラスを掴み、ロゼに向けて跳ね上がる――。
 咄嗟に逆の腕でそれを止めたおかげで、グラスの口は半回転。
 自分の方へ零れた水が紙安の制服を濡らす。

「ひゃっ!」
「だ、大丈夫!? シアちゃん……」
「…………。う、うん。ごめん、ちょっと手が滑って(こ、これって……もしかして強制力ってやつ……?)」

 一瞬……誰かが自分の身体を確かに支配した。
 そんな感覚に紙安はごくりと喉を鳴らす。

 頭の中で舌打ちの音が聞こえた気がする。
 ハンカチで甲斐甲斐しく服を拭い、気遣ってくれるロゼを前に、紙安はしばらく言葉を返せなかった。
< 24 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop