その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 ……――それきりだ。
 視界の端からさっと闇が取り払われるようにして、いつの間にか紙安はこうしていた。
 
「ステイシア、起きているか? 入るぞ?」
「は、はい。どうぞ」

 死んだはずのリューグが顔を見せ、時が巻き戻ったという実感が強まる。
 改めてぼんやりと紙安は彼の顔を見上げた。

「どうした? 俺の顔に何か変なものでも付いているか?」
「いいえ……。いつも通りの素敵なお兄様です」
「ははは。お前にそう言ってもらえるなら、身だしなみに気を使う価値もあるというものだな」

 目の前の穏やかな紳士が、この王国に大いなる破壊をもたらしたなんて……。
 実際にあんな目に遭った後でも、とても信じられない。

「さあ、今日は入学式だ。俺は仕事で付いていってやれないが、お前もアロウマーク家の娘として、天にいる父と母に立派な姿を見せてやってくれ」
「はい……」

 この笑顔の裏に、どんな思いを隠していたのか。
 復讐――実の妹にすら隠していたその思いをもっと理解しなければこの事態は解決しない。

 この上なく優しいリューグの表情が、紙安にそう予感させた。

< 46 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop