その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
「三回周って、スチルはスクショ、プリントして部屋中をリューグで染めてやる……。限定特典の目覚ましボイスも堪能して……ああ、やること一杯!」

 浸っていると、紙安の住む築三十年越え木造オンボロアパートの屋根が見えてくる。気分がいいせいか、いつもよりも目に明るく映る。

 あそこは頻繁にシャワーは冷たくなるし、セキュリティーもクソもない。
 でもとにかく家賃だけは安かった。

 コミュニケーション能力もビジネススキルも×(ダメダメ)な彼女が推し活と実生活を両立させるには、他に選択肢が無い。
 むしろあの建物のお陰で彼女はかろうじて夢の世界に浸っていられる。

 奮発したつもりの半額総菜と缶チューハイ入りの袋片手にパーティー気分でスキップしていると、どうも変な匂いが鼻についた。

(あれ……何か匂う? どっかで魚でも焼いてる?)

 異臭の発生源を探る紙安。
 どうもそれは家に近付くほど濃くなっている。
 ぼんやりした特徴もどんどんはっきりしてきた。
 キャンプファイアーによく似た香ばしい香りだ。
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