その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 そこはファンには宝の山であった。
 普段なら見られないリューグの着換え用の衣装や、身に付けている小物。
 シンプルながらも高級感のあるインテリアは、散乱している状態でも持ち主のセンスの良さを窺わせ、紙安は大興奮する。

(リューグの匂い……)

 ほのかに漂う彼の香水の香りを感じつつ、紙安は目立たないようこそこそと壁に張り付いた。本来ならいちファンとして、リューグに関する資料はなるべく目を通したいが、使用人たちに怪しまれても困る。

 手を伸ばしたい衝動を堪えていると、部屋の隅にあるものが発見できた。

 床に落ちた、古い革表紙の手帳。
 リューグの持ち物だろうか……その角からは葉書のような物がはみ出ている。
 使用人の目を盗み拾って開いてみると、挟まれていたのは一枚のデッサン画のようだった。

 背景の屋敷はこの建物ではないようだ。
 そこに描かれているのは、少年と腕に抱えられた赤子、それらの両親と思われる人物たち。

 この少年がリューグだとすると……十数年前、焼け落ちる前のアロウマーク家を背景に、家族を模写したものだろう。

 細かい表情まではわからないものの、仲のよさそうな穏やかな家族たちの姿が、そこにはあった。
< 69 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop