その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 まだ消防車は到着しておらず、侵入防止などのテープも張られていない。
 紙安は半狂乱で野次馬を掻き分けアパートへと突っ込んだ。

 煙に咳き込みながら、手当たり次第広げたゴミ袋へ推しグッズを詰め込んでゆく。もっと丁寧に扱いたいが、彼らの命もかかっている。

 火災は部屋の奥から発生したようで、そこには紙安の寝室がある。
 すでに火が燃え移っているのかパチパチと威勢のいい音がしている。
 それでも推しを見捨てることは紙安の頭には無かった。

 風呂場のシャワーを全開にして直接水をかぶると、寝室に突入。
 予想通り、和室のふすまや畳はすでにあちこちからメラメラと炎を立ち上げている。

「救出、救出ーっ!」

 床の間に飾っていたアクリルスタンドやタペストリー、フィギュアを手早く袋に捻じ込む。

 そして最後に彼女は一つのブレスレットを手に取り、ほっとした。

 現在の最推しリューグをモチーフとした百個限定生産のブレスレット。
 紙安としては相当に痛い何十万という出費プラス、百倍以上の抽選倍率を潜り抜けてゲットした宝物。これだけは決して手放すことができない。
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