その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 その後内乱は起こり、速やかに鎮圧された。
 荷担しなかったアロウマーク伯爵は王家に赦免(しゃめん)を申し入れた。
 だが、その声が届く前に、アロウマーク家はチェリファー侯爵たちの道連れとして王国軍に滅ぼされた。

 動揺を防ぐため、民草に多くは知らされていないが、アロウマーク家の名は王国の貴族籍より一時抹消されたのだ。
 
「それからは苦難の日々だった。王国軍から身を隠し、必死に落ち延びた。唯一幸運であったのは、父の友人であり、我々を受け入れてくれたボーセット伯爵が優れた人格者であったことだ。命だけは助けるよう王家に陳情し、アロウマーク家の復興を大きく支援して下さった。彼の助けと晶還術の素質が無ければ、私は未だ恨みを胸に燃やし、地方で(くすぶ)っていただろう」
「それじゃあ……ずっと私は、お兄様を苦しめて……」

 擦れ声で紙安は呟く。

 ステイシアは、リューグや両親の未来を奪った反逆者の子供だった……。
 きっと顔を見る度に辛い記憶を思い出したことだろう。
 いっそ殺したいと思ったことすらあったのではないだろうか。

 しかし、リューグが紙安を抱きしめる手はいつも優しかった。
 今も彼女を包み込むように抱える彼の表情は、妹への失うことへの恐れに震えている。

(……これは、一体)
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