その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 もう痛みも感じられなくなっているのに。
 紙安はそこで妙にピリピリする嫌な感覚を覚えた。
 以前リューグと接した際には感じることが無かったものだ。
 死の間際で感覚が鋭敏になっているのかもしれない。

 リューグが悔やむように、苦しそうに紙安の言葉を否定する。

「違う……! 家族を失った私にとって、お前の存在だけが支えだった。お前が兄と慕ってくれ、日に日に育つ姿が唯一、私の救いだったのだ。しかしどうしても、アロウマーク家の復讐だけは成し遂げなければならなかった。たとえお前を遠ざけても、何もかもを忘れて幸せに浸るわけにはいかなかったのだ!」
(リューグの胸に何かが……絡みついて)

 失血のせいか、もはや視線すらうまく定まらない。
 しかし紙安は、輪郭だけが朧気に映るリューグの胸元に、紫のおぞましい鎖のようなものが渦巻いているのを初めて見て取った。

 手を伸ばしたが、それは触れようにも触れられない。
 広間に沈黙が満ちる中……兄弟の会話に割り込んできたのはカイラスだった。

「妹のことは済まなく思うッ……! だがな……それに巻き込まれた俺の兄は――くそっ!」
< 79 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop