その推し、死なせません~悪役令嬢に転生した私、ループを繰り返しラスボスを救う~
 どこを探しても、髪留めは見つからなかった。
 それがどうにも寂しくて、紙安の瞳から、ぼろぼろと涙が出てきた。

「う、ぁぁぁぁ……ぁ」

 どうしていいか分からずに紙安は枕に顔を埋めた。
 いつのまにか彼女は、ステイシアを心の拠り所にしていたのだ。
 この広い世界の中で、唯一、本当の自分を記憶に留めてくれる存在として……。

 紙安は泣いた。誰かが部屋に入ってきても、言葉を掛けても構わずにずっと泣いていた。


 ――それから。
 日はとうに暮れ、ようやく紙安はほんの少しだけ自責の念から立ち直ることが出来た。

 静かに部屋に入ってきたリューグはずっと背中を撫でてくれていた。
 そしてなによりも胸に残る、ステイシアの言葉が彼女を奮い立たせた。

(私が、やらなきゃ……)

 託されたから。
 でも今はそれだけではなく、本当にステイシアとリューグのことが好きだから。
 ステイシアに報いるためにも、紙安はあの恐ろしい呪いに立ち向かうべく顔を上げる。
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