俺様御曹司からは逃げられません!
絢人は、楓にどんな印象を持っただろう。
頭でっかちの可愛げのない女なんて思われていたら――
どうしてだろう。彼にそう思われるのは心悲しいと感じた。
胸中が、不穏な波紋を描く水面のように揺らぐ。
絢人は何も言わなかった。
その代わりワシャワシャと、それこそ大型犬を撫でるように楓の髪を掻き混ぜる。
遠慮のない手つきによって、珍しく下ろしていた楓の細い髪は絡まりまくって逆立ち、感傷に浸るどころではなくなってしまった。
手櫛で乱れた髪を整えながら、楓はキッと睨みつける。
「もう!やめてくださいよ!」
「悪い悪い。ほら、頑張った楓にご褒美だ」
悪びれず薄く笑った絢人は箸を手に取ると、優雅な所作で蟹しんじょを切り分け、欠片を楓の口元に運んだ。
しんじょの餡が楓の唇にちょこんとくっ付く。
え……と楓が戸惑い、目を丸くしているところに、「口開けろ」と尊大な命令が飛んでくる。
絢人の声は楓を惑わせる魔力を孕んでいるようだった。言われるがまま従順に口を開いてしまう。
すかさず放り込まれたしんじょが、ほろほろと口内でほどける。
きっと先程と変わらず蟹の風味がふんだんに感じられる逸品に違いないが、味はよく分からなかった。
横からジッと楓を観察する視線から逃れるように、楓は鼓動が駆け足になっていくのを感じながら咀嚼し続けた。
頭でっかちの可愛げのない女なんて思われていたら――
どうしてだろう。彼にそう思われるのは心悲しいと感じた。
胸中が、不穏な波紋を描く水面のように揺らぐ。
絢人は何も言わなかった。
その代わりワシャワシャと、それこそ大型犬を撫でるように楓の髪を掻き混ぜる。
遠慮のない手つきによって、珍しく下ろしていた楓の細い髪は絡まりまくって逆立ち、感傷に浸るどころではなくなってしまった。
手櫛で乱れた髪を整えながら、楓はキッと睨みつける。
「もう!やめてくださいよ!」
「悪い悪い。ほら、頑張った楓にご褒美だ」
悪びれず薄く笑った絢人は箸を手に取ると、優雅な所作で蟹しんじょを切り分け、欠片を楓の口元に運んだ。
しんじょの餡が楓の唇にちょこんとくっ付く。
え……と楓が戸惑い、目を丸くしているところに、「口開けろ」と尊大な命令が飛んでくる。
絢人の声は楓を惑わせる魔力を孕んでいるようだった。言われるがまま従順に口を開いてしまう。
すかさず放り込まれたしんじょが、ほろほろと口内でほどける。
きっと先程と変わらず蟹の風味がふんだんに感じられる逸品に違いないが、味はよく分からなかった。
横からジッと楓を観察する視線から逃れるように、楓は鼓動が駆け足になっていくのを感じながら咀嚼し続けた。