俺様御曹司からは逃げられません!

3rd contact

 とある週末。
 都内最大級のショッピングモール「イリスモール」は大変な賑わいを見せていた。
 
 なんでも今日は、屋外の特設ステージで子どもたちに大人気の「コスモレンジャー」のキャラクターショーが行われるらしく、家族連れがとても多い。
 そこかしこでコスモレンジャーの武器を掲げている子どもたちを目にし、楓は微笑ましく思いながらモール内を歩いていた。

「あ!みやしたせんせいだ!みやしたせんせーい!」

 不意に名前を叫ばれ、楓はパッと足を止めて周囲を見渡す。
 すると猛ダッシュでこちらへ駆けてくる小さな影が視界に入る。
 そして次の瞬間、勢いを殺さないままタックルされ、楓は思わず呻き声を上げた。

「しゅ、柊吾くん、こんにちは……。でも、お店の中は歩こうね。走ったら他の人にぶつかっちゃうよ」

 強烈な一撃をお見舞いされた脇腹をさすりながら、華麗なタックルを決めた子供、二見柊吾を見下ろして軽く嗜めた。
 柊吾は楓が働く保育園の三歳児クラス――つまりは楓の担任クラスに所属している。
 
「でも柊くん、コスモレンジャーみたいにビューンってすっごいはやくはしれるから、だれにもぶつからないんだよ!」

 己が絶対的に正しいと疑わない無垢な瞳に見つめ返され、楓は苦笑を漏らす。
 屁理屈を捏ねる姿も無茶苦茶な理論も何もかも可愛い。幼児は楓の癒しである。
 
「コスモレンジャーもお店の中ではちゃんと歩いてるよ。他の人がびっくりしちゃうから、走るのは公園と園庭だけ。それにお母さんは?」
「――柊!!勝手に走ったらダメでしょ!」

 そう訊ねた矢先に、今度は母親の怒号が人波の向こうから飛んでくる。
 人混みをかき分けてこちらへ向かってくる柊吾の母の顔を見とめ、楓はペコリと挨拶がわりの会釈をした。
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