茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
(悪いのはお前で百子じゃないのにな。何て奴だ!)

陽翔は深山の仕事での印象が跡形もなく崩れる音を聞いた。仕事はできるかもしれないが、人としては最悪の部類に入るに違いない。陽翔は猛烈に深山を口汚く罵りたかったが、今はその時ではないとぐっとこらえる。

「深山さんは前の彼女が忘れられないんですね。それなのにどうして別れたんですか?」

深山は言い過ぎた自覚があったのか、瞳が気まずそうな光を帯びていた。しかし陽翔がそこに触れなかったことで安心して話し始める。

「そうですね……お互いの価値観が合わなかったからです。元カノとは婚約間近まで進んでましたが、意見の違いで衝突することが多くて、それにうんざりしてしまいました。将来一緒にこのまま暮らしていけるのかが不安になったのも一度や二度ではありません。でも今ではもったいないことをしたなと思ってます……元カノは仕事が忙しい中でも精一杯に家事をこなしてましたし、精神面でも俺を支えてくれたというのに……最後は喧嘩別れしました。まあ元カノに謝ったところで許してくれるとは思いませんが」

(だろうな。あんな酷い裏切られ方をされたのに、ニコニコ笑ってられる方がどうかしてる)

百子のあの悲痛な涙が脳裏にちらつき、陽翔は無意識のうちに拳を握りしめていた。別れる前の生活の詳細は百子から聞いていないので不明だが、価値観の違いは何となく想像がつく。

(婚約者で無いにしても、曲がりなりにも彼女がいるのに他の女と、しかも暮らしてる家で昼間から事に及ぶのは最低だ。それなのにそのことを反省するどころか、百子だけに原因があるだと……! どこまで屑なんだよこいつは!)

陽翔は彼が百子と別れた理由が、彼の手酷い裏切りという一番大事な所を隠したことに最も憤っていた。潔く自分が浮気現場を見られて百子と別れ、酷いことをした自分のことを忘れて彼女に幸せになって欲しいと考えているのであれば、許すことはできないとはいえ《《計画》》を実行に移すのは止めにしようと思っていた。

(でも反省もしてなかった……じゃあもう遠慮しなくてもいいよな)

陽翔は顔つきが穏やかに見えるように、口元と目元をなるべく緩め、心の底に憤怒を滾らせているのを隠した。

「そういえば気になってたんですが、どうして喧嘩別れしたんですか? 元カノに見られたくない物を見られたからですか?」

深山の表情が固まった。
< 117 / 242 >

この作品をシェア

pagetop