茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「至って普通の人に見えましたよ。むしろ職場でも気を配れたり、仕事そのものも他の人よりできている人でした。相手方がしっかり証拠映像を撮っていたので、多額の慰謝料を請求されて大変だったみたいですよ。そのうち社内で不倫したとバレてしまうのではないかと不安なようです。少なくとも婚約解消したことはバレてますからね」

深山は口を閉ざした。だが時折頬がひくついている所を見ると、陽翔の言葉に警戒しているのかもしれない。

「証拠、映像……」

「ええ。相手方はしっかりされた方だったみたいで。すぐに双方の両親にそれを送り、弁護士を立てて慰謝料請求まで持っていってましたよ」

深山の表情がいよいよ強張っていた。

「彼は元カノを裏切ったことを心底後悔しているようでした。でもそれは嘘でしょう。結果として元カノを裏切った事実は変わりませんし。罪悪感がそこにあったのなら、そこで止めれば良い話です。あっちが誘ってきたとか何だか言ってましたが、それなら誘いに乗らなければ良いだけのこと。あたかも自分の選択なのに、何故か巻き込まれたと言っていて不思議でしたよ。でも行動は嘘をつきません。彼は元カノを裏切りたくて裏切った。それが行動から導き出された事実です」

陽翔はここで水を飲んだ。深山はこれを聞いて生きた心地がしないだろうが、それを話す陽翔もまた自分の剥き出しの皮膚に直接ヤスリを掛けるような心地がしていた。どうしても《《あの時》》のことが頭から離れず、その時の感情が一気に吹き出したのだ。

「おっと、深山さんの話だったのに俺の話になってしまいました。すみません。酔いに任せて強烈なことを言ってしまいました」

「いえ……俺が元カノに隠した理由が霞むほど強烈なことを打ち明けられたなら、それを一人で抱えるのはきつかったと思いますよ。吐き出せて少しは楽になれたなら良かったです」

深山が気遣いを見せていたが、陽翔はますます腹に渦巻く物が荒れるのを感じた。

(あんなことを言ってしまった手前、自分も元カノを裏切りましたとは口が裂けても言えなくなったな。まあずけずけ言う方もやばいが)

陽翔は感謝を上辺だけで述べ、スマホを操作し始める。深山は顔を青くしていたが、陽翔は気にも止めない。

「ちなみに深山さん、元カノに見られたくないことって、例えばこんな感じのものですか?」

陽翔は開いていたスマホの画面を深山に見せてから再生ボタンを押した。深山はそれを訝しげに見ていたが、その動画が進むにつれて理解したらしく、テーブルに勢いよく手をついて陽翔のスマホをひったくった。
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